山形新庄大豆畑トラスト誕生

  • 『現代農業』<農文協>
  • 1998年11月号掲載記事から抜粋

ダイズでおもしろいことができそうだ

ひょっとしたら大豆でおもしろいことができるかも知れない……

今田浩徳さん(三五歳)は今年、契約したダイズ畑の種まきや草取りのためにわざわざ自腹を切り、泊まりがけでやってきた消費者の人たちの笑顔に出会って本気でそう思い始めた。

新庄のファンクラブをつくるのだ

六月六日、大豆畑トラスト会員となった消費者が新庄市へやってきた。駅前に集まった総勢三〇人余り。第一回目のイベント、種まきである。定年を迎えた年輩のご夫婦、小さな子ども連れの家族などなど、お互い大豆畑トラストを通じて今後知り合いになる人たちの初めての顔合わせであった。

その日は、新庄を知ってもらうために、市内をあちこち見て回り、夜は集落の集会所での交流会が開かれた。農家のお母さん、お年寄りが作った料理、それに会員も参加してつくった料理が並び、話が弾んだ。

今田さんはこのとき、消費者に向かって必死になってしゃべっている。ダイズの自給率がわずか三%しかないこと、ダイズ栽培のやり方のこと、北に鳥海山、西に月山、東に神室山に囲まれた盆地で、水と空気がきれいな「風水の里」と呼ばれていること、食べ物のこと……新庄のよさを精一杯アピールした。

何がどう消費者に伝わったのかはわからないけれど、七月二十五~二十六日に行なった第二回目の草取りツアーには、種まきツアーにも来てくれたその同じ顔ぶれが何組かあった。

「あー、新庄のファンになってくれた人がいたんだ」。

今田さんはほっとした。今年はダイズの発芽もよくそろい、病虫害の発生も少なく、訪れた消費者の顔にも笑顔が絶えなかった。

子どもたちも、「東京じゃこんなことできないよ」と軍手をはめてダイズ畑を走り回り、元気が有り余ってダイズを踏み倒す事件も。作業服や軍手などは消費者持参である。中には昔懐かしいモンペを持参した人もいた。首にはタオルを巻き付けて黙々と草を取っていく奥さんたちに今田さんも驚かされた。

驚いたのは今田さんだけではなかった。

アトピーのお子さん連れで家族参加された方があったんです。うちに泊まられたんですが、私とちょうど同年輩で、話は子どものことになるでしょ。『いい食べ物に出会えなかったんです』なんて話されると、私どう答えたらいいのかわからなくて・・・・アトピーで苦しんでいる子どもがいるという話は聞いていたけど、身近にそんな苦労をしていた人がいると受け止め方が違ってきますね。食べ物はウソをつかないんっだてわかって・・・

サラリーマンの家族出身で浩徳さんと結婚した理香さんにとっても、農業の大切さを消費者の人たちに教えられた出来事だったのである。理香さんはその日、その奥さんと一緒に相談しながら自家用の野菜を中心に食事の準備をした。